こんにちは、まのです。
言語聴覚士のお仕事紹介、専門領域の後編ですね。
言語聴覚士が専門的に関わらせて頂くことの多い領域を書かせて頂いているわけですが…前回は失語や発達検査などのコミュニケーションに関わること、吃音や構音、発声といった話し言葉に加え聴覚領域と3つのパートに分けてお話ししました。
今回は残り2つ。高次脳機能障害と嚥下、というところをご説明できればと思います。
この2つ、最後に出てきましたが実際には言語聴覚士が関わらせて頂くこともすごく多い領域です。
一見、僕が今行っているカウンセリング業とは関係ないと思われるかもしれませんが…脳や筋肉、神経といった人を構成するものを知ることで心理や行動といったものの理解にもつながってくる、というのは日々実感しているところです。
では前置きはこの辺にして、それぞれの中身を見ていきましょう。
専門領域4 高次脳機能障害(失語症を除く)
さて、まずは高次脳機能障害について。
いきなりですが、こちらは僕が以前youtubeでアップしたショート動画があるのでこちらを貼らせて頂きます。
と、動画を見て頂ける方は見てもらえると良いのですが、そんな時間はない!という方のために内容を文字起こししたものも↓に貼っておきます。
【以下、文字起こしです】
高次脳機能障害とは、脳の中でも高次な機能が障害された状態をいいます。
では高次ってどういうこと?
についてですが、まず低次な脳の機能いうのは生命維持に関するものです。呼吸、排泄、体温調整、睡眠など無意識に行っていることです。脳をもつあらゆる生命がもっている機能ですね。
では高次脳がなにか、というと人間を人間たらしめている部分を指します。
言葉を操ったり、未来に向けて計画を立てたり、必要なものに意識を集中させたり、複雑な道具を扱ったりする。他の動物にはない機能です。
こうした機能が脳梗塞や頭部外傷など、脳にダメージを受けて低下してしまうことを高次脳機能障害といいます。
高次脳機能障害は、作業療法士や言語聴覚士といったスタッフによるリハビリの対象となります。
と、以上が動画内でお話ししている内容になります。
人間を人間たらしめている、というところがキーワードになるでしょうか。思考や感情、類推やさまざまな活動、言葉を操るものなどを含みます。
これらのいずれかが障害される高次脳機能障害というものには、注意障害、失語症、失行、失算、失書、記憶障害、失認、半側空間無視…などなど、なんだか一見難しい漢字が並ぶ種類があります。
1つずつをここで掘り下げることは控えますが、いずれも障害が起きると仕事や車の運転、家事、余暇活動などあらゆることに影響が出うることであり、言語聴覚士や作業療法士のリハビリの対象となります。
ちなみにすでに書いてありますが、前編でご紹介した失語症も本来はここに入ります。
とはいえ、言語聴覚士の領域の中で失語は特に密接に関わる分野ですので、この中から外して別途紹介させて頂いた次第です。
専門領域5 嚥下
さあ最後に登場したのがこちら、嚥下障害です。
嚥下障害と書くとなんだか難しいですが、つまりは食事、飲み込みが障害されることを嚥下障害と言います。
高齢者の方がお餅をのどに詰まらせて…という痛ましいニュースを耳にしたことがあるかと思います。
この例からも分かるように、飲み込みにも筋力が必要なわけです。全身の筋力、体力が加齢とともに低下するということは、飲み込む力にも影響が出ます。
こうした加齢による低下や、脳梗塞などの脳血管疾患、パーキンソン病、肺炎、気管切開をするような大病などなど様々な要因で飲み込むことが難しくなると、食べ物が肺に誤って流入してしまうことがあります。
あるいは、生まれつきの障害などで飲み込みが難しいお子さんのリハビリを行うこともあります。
肺にとって食べ物は異物です。肺に誤って食べ物などが入ってしまうことを誤嚥といいます。
そしてそこで菌が繁殖し、肺炎を起こすことを誤嚥性肺炎といいます。
ここで登場するのが言語聴覚士です。
1人1人の患者さんに合わせ、飲み込みが難しくなっている原因を分析し見合ったトレーニング(訓練)を行います。
実際には言語聴覚士だけでなく、理学療法士や作業療法士、歯科医や耳鼻科医、看護師、栄養士といった幅広い職種と連携して対応を行っていくことの方が多いです。
この嚥下領域、ここまで出てきた4つと比較するとやや異質であることにお気づきでしょうか?
どこが異質かというと、対象とするものです。
これまで出てきた4領域はほとんどが脳の中で考えること(高次脳機能障害や発達障害)、あるいは吃音や聴覚といった、目に見えないものが対象でした。構音障害は例外ですけどね。
対する嚥下障害は、筋肉という明確にアプローチする対象があります。言語聴覚士が担当する他の領域と違い、目に見えるものが相手なわけです。
実のところ、言語聴覚士が担当する分野の成り立ちとして嚥下というジャンルはややイレギュラーな存在だったようです。
ST(スピーチセラピスト)という名のとおり、始めはコミュニケーションに関連した分野に特化した職業だったそうですが…首から上を担当する、という活躍領域の中、流れの中で自然と嚥下にも関わるようになっていったという成り立ちがあるそうです。
このように、恐らく資格が出来上がったときには想定されてすらいなかった嚥下領域での活動ですが、いまや一般的な病院に勤める言語聴覚士の仕事の7割は嚥下関連ではないでしょうか。
僕は小児分野を多く担当していたので、そうすると嚥下以外の仕事も多いのですが、成人領域のみを担当する言語聴覚士だと、間違いなく嚥下は毎日欠かさず関わると言ってよいほどです。
それだけ、飲み込みの難しさを抱える患者さんが多くおられるということですね。
僕も言語聴覚士として勉強を始めたばかりの頃は、コミュニケーションの障害のリハビリが主だと思っていたので、嚥下の占めるウェイトの大きさに驚いたものです。
今となって改めて、発達障害などコミュニケーション分野での仕事がメインになっていますが、では嚥下の経験に意味が無かったかというと決してそうは思いません。
というのも、嚥下に携わることで多くの当事者の方、ご家族の方と関わらせて頂くことができたからです。
嚥下という領域で仕事をするのは、ときに人生最後に何を食べたいか、どこまでリスクを許容して食べたいものを食べるか、鼻から管を入れて栄養を摂り延命するのか、といった明確な正解の無い判断をご本人やご家族の方としていく日々の連続です。
その中でそれぞれの立場の方の思いを聴いたり、価値観の違いに触れたり、自分の周りでは感じたことの無い親子のつながり方を目の当たりにしたり…と、ここでしかできない経験を多くさせて頂きました。
どの領域に関してもそうですが、人と関わるという根本が共通である以上、あらゆる経験が今の自分の糧になっており、精神的な支援をする立場にも生きていると感じています。
まとめ
以上、言語聴覚士の専門領域を5つに分け、前後編に渡って書かせて頂きました。
いやー、小難しい内容になってしまってすみません…。
言語聴覚士という職業一つ説明するのも、こうして言葉にしていくのは骨が折れるものだと実感しました…。
ただこうして振り返ってみると、本当に広い分野に渡って経験をさせて頂いてきたのだと感じます。
公認心理師に加え、こうして言語聴覚士として積んできた経験があるから自分だからこそ、相談される方にとってプラスになる視点というのがあると思っています。
心理士一筋の方のすばらしさもあれば、僕のような複数職の経験による良さもあると思います。
それぞれのカウンセラーの個性があることで、より多くの相談者の方の助けになっていけると良いなと改めて考える機会ともなる記事でした。
まの☆言葉と発達障害と心の専門家さん