こんにちは、まのです。
前回の記事では愛着障害に関しての用語を、当相談室なりの見解で整理してみました。
詳細が気になる方は↓をご覧ください。
結論だけ抜粋すると、当まのぱぺ相談室での用語はこのように整理いたしました。
・医学的診断に準ずる愛着障害…………『反応性愛着障害』または『愛着障害』『狭義の愛着障害』
・愛着の課題による生きづらさ………『不安定型愛着』または『大人の愛着障害』
…なんですが、早速今日のコラムで扱う話題は上記に当てはまらない部分であることに気づきました。うーん、改めて難しい(^_^;)
それがなんなのかは後で触れるとして、ひとまず今回のテーマはタイトルにもある通り『子どもたちの愛着形成と神経発達症』についてです。
合併しやすい、あるいは誤診されやすい…といったようにこの二つの話題が一緒に語られる場面を見たことがあるという方も多いかもしれません。
これは紛れもなく事実で、愛着形成の課題と神経発達症はかなり地続きの話題です。中でも僕が今回特に取り上げたいのは、1つの角度から見ていただけでは臨床家でも気づけなかったことがたくさんある……というお話しです。
僕は言語聴覚士として病院の言語訓練室に勤務していた過去があり、一方で現在は地域の保育園に月一回の訪問を継続しています。
そうして感じた、病院という一か所にいるだけでは気づかなかったであろうことを書いていきたいと思います。
pickup お子さんの発達、愛着に関連する過去記事
愛着の課題を抱える子どもたち
さて早速になってしまいますが、今回のテーマにあたるお子さん方は前回の記事で整理した用語には当てはまりません…やはりというかこの話題の整理の難しさを感じます(^_^;)
今回話題に挙げたいのは、反応性愛着障害(虐待や死別などによる従来の愛着障害)でもなければ、不安定型愛着と呼ばれるような愛着パターンの偏りで生きづらさを感じられているような方でもありません。
ただ、もしかしたらその卵と言えてしまうのかもしれませんが…それが今回のテーマである『愛着の課題を抱えるお子さん』です。
養育者の過干渉であったり、特殊な生活環境、家族と過ごす時間の不足といったものの影響から、保育園での生活や行動、コミュニケーションになにかしら苦戦を強いられているお子さんが一定数おられます。
ちょっとイメージしづらい話かもしれませんので、個人が特定されないようフィクションも交えながら具体例をご紹介すると…。
たとえばあるお子さんはどうしても食べられるご飯の量が増えず明らかに栄養が不足しており、年を重ねるごとに周囲のお子さんとの体格差が大きくなっています。背景にはご両親のときに厳しすぎときに放任という極端な躾が影響しているようです。
食事以外にも、その子は排泄や睡眠といった各生理現象に影響が出ています。
別のお子さんでは、選択性緘黙(かんもく)と言ってしまえる状態がみられています。
選択性緘黙は特定の場面や人相手ではどうしても話すことができないという状態です。このお子さんは保護者の方とは楽しくお話しできますが、園の先生やお子さんに対しては決して口を開きません。
園での生活には何年かかけて慣れてきており、担任の先生には心を許してきてはいます。それでも言葉で表現することはほとんどなく、また、担任の先生が視界にいないときはボーっとしてまるで感情をシャットダウンしてしまっているように見える状態です。一人遊びをすることもなく、〇〇をしてと言われるまでそこに留まってしまいます。
このお子さんに関しては、極端に家庭で過ごせる時間が少ないようです。詳細は伏せますが週のほとんどを園や外部機関で過ごしており、大人の労働時間を遥かに超えるほど家の外で過ごす時間が長くなっています。
大人でも一定の休みが無ければ心身のバランスを崩しますので…これほどまでに長時間安心できない環境に身を置かなければならいとなると負担がかかってしまって当然とも言えます。
そもそものベースも繊細なお子さんだと思われますので…ご両親のやむを得ない事情はもちろんあれど、いくらかでもこのお子さんが安心して過ごせる時間が増えることを願うばかりです。
と、挙げていくとキリがないほどまだまだ挙げられる程度にはこうした気になるお子さんはおられます。
僕の感覚で恐縮ですが、訪問している保育園では2才クラス~年長さんクラスのうち10人に1人か2人ぐらいは気になるお子さんがおられます。
(もっと些細なところまで裾野を広げると割合はグッと増えますが、ひとまず例で紹介したような明らかな困難が生じている人数にするとこれぐらいです)
行動面などが気になるけども、神経発達症などの要因だけでは説明できない感じがする⇒よくよく園の先生などからお話しを聞いていくと愛着形成の課題が背景にある様子。
という流れをこれまで何度も見てきました。
難しいのは、これらのお子さんのどこまでが愛着形成の課題であり、どこまでが神経発達症など個人の特性によるものなのか注意深く見ないといけないということです。
そこの原因を見誤ると対処法も誤ってしまいますからね…。
ここを鑑別するのはそれこそ臨床家の経験値や観察力、情報を整理する力が試されるところではないかと思います。言い換えればそれだけ難易度の高いことでもありますので、冒頭で触れたような「愛着障害と神経発達症は誤診されやすい」といった言われ方をします。
また、併発しうるのも事実です。
ある意味では教科書的な知識だけでは限界のある、まだまだAIより人の観察眼というものが必要な領域なのかもしれません。
病院勤務時代には気が付けなかったこと①疾患特性以外の視点の大切さ
さて、ここからは病院と施設や保育園という場を経験し、言語聴覚士と公認心理という複数の資格からの視点ももてたことで気が付いたことを挙げていきたいと思います。
まず病院勤務時代の自分を思い返して感じるのは、当時の自分は疾患特性へ視点が偏っていたかもしれない、ということです。
つまり、発達障害やLD(学習障害)、吃音、緘黙症といった言語聴覚士の得意とする領域の疾患は診ることができるものの、それ以外に関する視点が弱かったなと。
特に愛着の課題というものへの知識や認識はごっそり抜けていました。これはむしろ、言語聴覚士だけでなく作業療法士や理学療法士といったセラピストと呼ばれる各専門職共通の課題だと思います。
こうしたセラピストのカリキュラムでは、愛着形成などを学ぶ機会は確かにあるものの決してメインでは学びません。
僕自身、かなり学生時代マジメに勉強した方だと自負していますが、それでも愛着の話がここまでお子さん方と関わる上で重要なものだとは気づく余地もありませんでした。
そういった背景もあって、どうしてもお子さんを見る視点が「言葉の育ちがどうか」「コミュニケーションは?」「発音は?」という視点になりがちです。
これはこれで大切なことですが、公認心理師として学び多くのご相談を受けるうち、いかにお子さんの身に起こっている心理的な課題、愛着形成、安全基地の確保といったものが発達に影響するかを知りました。
言語聴覚士はリハビリの専門職として、その子の力を発揮できるような環境調整、トレーニングの仕方の引き出しをたくさん持っています。
そうした助言や指導を保護者の方にしていくことももちろん大切です。
ですが今になって感じるのはお子さんを伸ばそうと思うがあまり、保護者の方が安全基地としての役割よりも躾やトレーナー役になってしまっているケースが珍しくないということです。
そうした場合、お子さんには『練習させる』よりも『支える』『ピンチのときの逃げ場』として大らかに関わることが大切なこともあるでしょう。
もちろん発達障害のあるお子さんに対して、適切な行動を知ってもらうアプローチの仕方も大切ではありますが。
お子さんが安心して力を発揮できる状況、すなわち安全基地の構築無くしてはこれらのトレーニングも力を発揮しづらいだろうと。
複数の視点を経験した今、そのお子さんの発達特性、あるいは心理状態の両方を大切にした働きかけが必要だと強く感じています。
病院勤務時代には気が付けなかったこと②受診に来られる時点でお子さんと向き合おうとされている
2つ目の気づきはこちらです。
恥ずかしながら、病院勤務時代に思っていたことに一部のご家族に対して『もっとお子さんと向き合ってほしい』という思いがありました。
これは本当に良くないことですが、来院された保護者の方がいつも受診に対して後ろ向きであったり、お子さんのリハビリや成長に無関心だったりすると『もう少し関心をもってくれても…』などと思ってしまっていたのです。
ただ、保育園に来てから、あるいは当相談室でご相談を受けるようになってから僕はようやく気付きました。
多くの保護者の方は、受診までにとてつもなく葛藤しておられ、何度も何度も迷った結果ついに受診を決心されるという過程を経ています。
病院に行ってお子さんの発達について話を聞くというのは、お子さんの未来を決定づけられる最後通告のようなものが待っている気もしてしまいますし、ご両親だって怖いというのは当たり前のことです。
ただ、スタッフとしては病院にいると、来院されるまでの葛藤というのは残念ながら感じづらいんですよね。毎日当たり前のように皆さんが受診して来られる場にいますから…。
僕は保育園などで、悩みながらも受診に踏み出せないというお母さん方のお話しを何度も聞き、いざ受診を決意するまでに何年もかかることが珍しくないのだと知りました。
受診を決意するまでにはご両親自身の努力だけでなく、園の先生方や保健師さんの説明、勧めなどが何度も行われてたどり着けたというケースも目にします。
こうして辿り着き、その中で受診を継続されている時点で…お子さんに対して向き合っていないはずがありません。
ただ、そう簡単に何もかも前向きに受け入れられるほどシンプルな話でもなく、ご両親によって病院受診への取り組み方が違うのは当然と言えます。
だからこそ、リハビリスタッフやカウンセラーといった立場の人間は、表面的なご両親の態度だけでなくその心の内の葛藤を想像しサポートすることが大切なのだと感じています。
そしてある意味、今回のテーマである愛着の課題を抱えるお子さんという視点でいくと、受診に至っていないお子さんにこそ真のサポートの必要性があるのかもしれません。
この記事内で挙げた例のお子さんもそうですが、何かしら発達に影響を与えるところまで愛着形成の課題がありながらも、周囲やご両親から気づかれることなく受診に至っていないケースというものが存在します。
たとえばご飯を食べられないお子さんは、明らかな嘔吐や拒食があれば「摂食障害」として受診を勧める声が上がったりご両親も受診を検討されるかもしれませんが、幸か不幸かそこまでは至っていません。
結果、ご両親や園の先生方からは「困ったお子さん」という見られ方をして僕のところに相談依頼がきました。今では本人の能力不足や努力不足の問題ではないことを先生方へお伝えし、関わり方など助言をさせて頂いたことで認識は変えることができたようですが。
こうした、『病院受診に至っていないものの確かにその子の将来に影響を及ぼすリスクがあるケース』を、いかに拾い上げて対処するか。
保育園という場に出向き、専門職としてサポートをする意義はこういったところにあるようにも感じています。
そしてこうした愛着形成の課題がある子のご両親も、決して子どもが憎くてそうした環境にしているわけではないはずです。
やむを得ない事情があり、またそれらがお子さんに影響しているとは夢にも思わないことでしょう。ただ知らなかった、というだけで大切な子どもの成長に影響が出てしまうのはあまりにも残念なことです。
知る機会が無かったご家族に対して、以下に適切なサポートを届けられるかというのも重要な課題だと考えています。
おわりに
以上、言語聴覚士兼公認心理師、病院勤務&保育園訪問、その他施設勤務や相談業務という多様な立場に立ってきた身として気づいたことを挙げてみました。
実際には他にもあるわけですが、相変わらず記事がボリューム過多になってしまいそうなので2点までとしました。
改めてになりますが、発達障害と愛着の課題は一見すると似た言動を示すことがあり、また併存もありえます。
ただ、それぞれでお子さんにすべきサポートは変わってきますので…やはりその子に沿った関わり方というものが大切になってきます。
正直なところ、言語聴覚士という職種の中では愛着の課題はほとんど重要視されていないのが現状ですので…今後もっと広く知られ、言語聴覚士内でもこうした視点をもったスタッフが増えていくことを願うばかりです。
まの☆言葉と発達障害と心の専門家さん
まの profile (当相談室のカウンセラー)
資格:言語聴覚士
公認心理師
正規keep safeインストラクター修了
◎経験領域 (病院勤務時代)
・急性期小児~成人リハ (失語症、嚥下障害、高次脳機能障害)
・1歳~18歳までの支援 (発達障害、ことばの遅れ、(構音)発音、吃音、緘黙、学習障害、嚥下障害)
・重症心身障害児・者リハビリテーション
・保育園へ月1回訪問し、保育士さんとの意見交換業務を継続中
・学会での発表経験複数回あり
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